『龍の棲む家』玄侑宗久

有吉佐和子恍惚の人をたまたま読んだことがあるんだけれど、そんな感じの、ちょっと通俗的な小説。(ボケた人にもまだ、美を感じる気持ちが残っていて、ホロリとするようなところなど、恍惚の人にもそんなシーンがあったような。なかったっけ?)
龍というか龍的なモノの、得体の知れなさやオドロオドロしさ、というのがあまり伝わってこない。この辺がなんか弱い気がするので、たんにボケの介護に苦労する人の話に(半分)なってしまっている。
いつのまにか介護職人として家に出入りする女性との関わりをどう描くかによっては、文学的な奥行きも出ると思うんだけど、登場から関わりまでが、ちょっと不自然というか、最後には寝るとこまで行ってしまうし、こんなんでいいのか、と思いながら読んでいた。
この女性が抱えることになってしまった「過去」についても、分かりやすくてありきたりで、なんか食い足りない。
最後になって手紙を書こうとするところなどは、ちょっと唐突に晴れやかな描写なのだが、異性とああいうふうになったとき誰かに何かを言いたくなるというのは、たしかにありそうだ。