『アサッテの人』諏訪哲史

いや最高でしょ、これ。
とりあえず、このブログに文芸雑誌の読書を記録しだしてから最高じゃないかと思う。佐藤友哉なんぞに三島賞わたすくらいなら、諏訪氏芥川賞あげるべきだろう。
たまたま三島賞の発表のタイミングで読んでいたもんだから比較するだけだけど、あんな作品が三島賞で、じゃあこれは何なのよとため息ついてしまったよ。群像新人文学賞にはもったいない、という言い方もちょっと変だけれども。


書き出しはちょっと取っ付き辛い所はあるし、他にも欠点を探せばあるのかもしれないけど、面白さが完全に上回ってる。言葉に関する着眼点でも、なかなかうならせるところもあるし、よくここまでおかしさを引き出せたなあ、とにかくスゴイや。
かといっておかしさだけでなく、途中の詩なんかもしんみり読ませるし、アサッテの人の奥さんに対する思いもちゃんと織り込んでいて読後感も良い。


とくに笑ったのは、ある洋物の流行歌に関する部分と、「キツツキ」の練習、それにとくに良く聞かれた4語に関する所とか、チューリップ男の話も良かった。
なんて、とくに、とか言いながら4箇所も挙げてる。
つまりまあ、そのくらい面白いところが多いのだ、この小説は。
ちょっとした事、というか、たいていの人が日常として捉えていてあまり気を配ってない所に異様に拘った記述をするところなどは、読んでいてジョン・バースを思い出したりもした。


私のばあい連載作品もそれぞれ面白く読んではいるけど、この作品だけで群像を買っても元は取れる、と言い切って良いだろう。