『カデナ』池澤夏樹

まだ海のものとも山のものとも状態だが、登場人物についていえば倦怠感の漂う米国将校など魅力的で、外国暮らしが長く翻訳も多い人らしい、凝ったところのない簡潔な文体もなかなか好印象。
文体に関する好みは、昔からすればずいぶん変わってしまったと思う。10年以上前の私だったら、今月号にも書いている佐藤友哉だとか古川日出男とかああいう感じのを好きになっていた可能性は結構ある。
内容よりも形式の面白さ、上手さに重点をおく、というと単純すぎる言い方になってしまうし、小説にたいしてメタに立ったような諸作品はそこまで内容がない訳ではないのだろう。けれど今は、上手さや才気を感じさせないほうが実はすごい事なんじゃないか、というふうに思う事が多い。


で、池澤夏樹なのだが、あまり良い印象はない。
この事は、今自分の日記を検索してみたら前にも書いていたけど、コスモポリタンな、いかにも偏りのない自由な人、というイメージ。それから同時多発テロのとき割と早い段階で、ネットに飛び交った陰謀論にナイーブに加担していたこと。
当時も今も陰謀論陰謀史観というのは大嫌いなもののうちのひとつ。あのテロのときは、ネット特有の露悪的な所も助長して、おめでたい反米論、反ブッシュ論ばかりでウンザリさせられたものだ。
池澤氏の反米はただちにナショナリズムや自己中心的言説に結びつくようなものではなさそうだし、あの騒ぎが沈静化したなかでみれば、それほど嫌悪感を抱くものでもないのかもしれない。
ともあれ、他の連載作品目当てに『新潮』は買うので、せっかく金を出すのだからこの作品がもうひとつの楽しみとなることを期待。テーマも社会性が高そうだし。